近年「男性不妊」という概念が浸透しつつあるように思います。
日々漢方相談業務に携わっていても、男性がお一人でご相談に来られることも増えてきました。また、精液所見の向上のために、泌尿器科や不妊治療専門クリニックでも漢方薬を処方されることもしばしばです。
また、最近では携帯で精子の状態を観察できるアプリも登場し、まず自宅でご自分の精液を見てみたところ全く見えなく、急いで病院を受診されたという方もおられ、不妊治療は従来のように女性だけが抱える問題ではないという意識が高まっていることを実感しています。
WHOの調査によれば、「不妊原因の約半数は男性にある」とも言われています。
今回は、従来は問われることのなかった「精子力」と、それにまつわる漢方のお話です。
妊娠が成立するための4つのポイントは射精・排卵・受精・着床ですが、このうち男性に関わるところはもちろん射精です。しかし射精が出来ていれば大丈夫というわけではなく、おおまかに言うと十分量の精液と十分な数の元気な精子が存在することが大切です。これは見た目だけではわからない為、精液検査をして詳細を調べます。(精液所見の基準値詳細に関してはここでは割愛します)
精液所見を左右する原因は機能的に見ると大きく分けて3つあります。
①造精機能障害(精子を作る機能・過程に原因がある場合)
精索静脈瘤、ホルモン分泌異常、精巣機能低下、停留精巣、精巣炎、染色体異常、遺伝子欠損などの場合があります。
②精路通過障害(精子は作られているが通り道(精路)に原因がある場合)
先天性の精路の欠損と、後天性(疾患や手術が原因)の場合があります。
③性機能障害・・勃起障害(ED)、射精障害
ストレスなど心因性の場合、糖尿病などの疾患が原因の場合があります。
手術や投薬などで精液所見が改善、または精子を見つけ出せることもあれば、原因がわからないもしくは精子を見つけ出せないこともあり、また精神的な要素が大きく関与するところもあるため、「卵子と異なり毎日作られている」「卵子ほど加齢の影響を受けない」といわれながらも難しい分野であると感じます。
精液所見をよくする方法はありますか?と質問を頂くことがありますが、よく言われる「NGなこと」(まずは喫煙!サウナ、締め付けの強い衣服、長距離の自転車、多量の飲酒や肥満等)を避けていただき、本当に基本的な話ですが、7時間以上の睡眠、バランスの良い良質な食事をまずは心がけて下さいとお話致します。
また、選択肢の一つとして「漢方の服用」があります。
それでは、男性不妊に使用する漢方薬とはどのようなものがあるのか見ていきましょう。
①妊娠に関わる性機能・生殖能力は「腎」の力であり、そこに蓄えられている「腎精」の消耗が生殖能力の低下を招くと考えます。漢方薬には「腎」を補うものがあり「補腎薬」と呼びます。性欲減退、運動率の低下、数の減少、などにお勧めすることがあります。六味地黄丸、八味地黄丸、参馬補腎丸®など。
②精子の運動能力の根本となる「気」を高めるお薬を「補気薬」と呼びます。運動率の低下、持続力がない、疲れやすいなどの不調がある場合にお勧めすることがあります。補中益気湯、麦味参顆粒®など。
③ストレスが多く自律神経が乱れがち、イライラ、不眠などの症状がでることを東洋医学では「肝鬱気滞」と呼びます。このような状況ではホルモンバランスが乱れたり性機能にも影響が出やすくなります。「肝鬱気滞」を改善するお薬を「疏肝理気剤」と呼びます。加味逍遥散など。
④血流が悪くなった状態を東洋医学では「血瘀(けつお)」と呼びます。精索静脈瘤の原因ともなりますし、普段から頭痛や肩こりになりやすい方は「血瘀」の可能性もあります。「血瘀」を改善する漢方薬を「駆瘀血剤」「活血薬」と呼びます。桂枝茯苓丸、血府逐瘀丸など。
これらのお薬をいくつか組み合わせてお勧めさせていただくことが多いです。
精子は卵子と異なり毎日新しく作られていますが、1つの精子が作られるまでに約3か月を要するといわれています。まずは3か月~半年のスパンでお考え下さい。
あくまで一般的な話ですが、男性は女性より「毎日コツコツとお薬を服用する」ことが苦手な方が多いように思います。筋トレと同じく”毎日継続してこそ”成果が現れやすくなるというもの。根気よく取り組みましょう。
まずはご相談ください!
アキュラ漢方 徐 朝子
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