【論文解説】電気鍼治療は交感神経を介して褐色脂肪組織を活性化させ、PCOSラットの症状を改善する(原著論文)

論文解説 | 不妊鍼灸治療のアキュラ鍼灸院
【論文解説】電気鍼治療は交感神経を介して褐色脂肪組織を活性化させ、PCOSラットの症状を改善する(原著論文)

論文解説:
電気鍼治療は交感神経を介して褐色脂肪組織を活性化させ、PCOSラットの症状を改善する(原著論文)

Three-dimentional visualization of Electroacupuncture activates brown adipose tissue via sympathetic innervation in PCOS rats
Gao H et al. Preprint from Research Square, 03 Mar 2022 (under consideration at Chinese Medicine.)

概要
褐色脂肪組織(BAT)は多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の症状を改善する作用を持つ。また、電気鍼治療もPCOSの症状を改善することが証明されており、白色脂肪組織(WAT)をBATに誘導することが知られているが、詳細なメカニズムは不明であった。本研究ではPCOSラットに電気鍼治療を行い、PCOSやBATにどのような影響が現れるか検証した。
PCOSラットでは肥満、脂質異常症、耐糖能異常と共にBATの減少が認められたが、治療群ではこれらの所見が改善していた。また、治療群では、交感神経やBATの活性に関わるマーカーがより多く発現し、交感神経の再構成やBAT活性を促進していた。電気鍼治療はこれらの機序でPCOSに作用している可能性がある。

背景
PCOSは生殖年齢女性の5~8%に発症し、肥満や代謝異常など多彩な症候をきたす上、不妊や月経異常の原因となる。最近の研究では各種の脂肪組織がPCOSの発症・進行・予後に関与することが示唆されている。
BATは交感神経からの刺激を受けて熱を産生し体重や体脂肪量を減らすが、PCOS患者ではBATの活性が抑制されており、BATを移植すると症状が改善することが知られている。
電気鍼治療もまたPCOSに有効である。電気鍼は脱共役タンパク質1(UCP1)を介してBATを増加させると報告されており、電気鍼よるBAT増加はPCOSを改善しうると言える。また、BATは交感神経系の支配を受けているため、電気鍼による交感神経の活性化がPCOSへの治療効果に寄与している可能性がある。
本研究では肥満ラットやPCOSラットに電気鍼治療を行い、PCOSにおけるBATとその交感神経支配の役割、そして電気鍼治療がそれらに与える影響を調査した。

方法
21日齢の雌ラットを対照群、肥満群、肥満+EA群、PCOS群、PCOS+EA群に無作為に分け、各群はそれぞれ7~8匹とした。
肥満群、肥満+EA群には高脂肪食を12週間与えた。PCOSラットPCOS群、PCOS+EA群にはジヒドロテストステロンを90日間投与した。
治療群(肥満+EA群、PCOS+EA群)には実験9~12週目に電気鍼治療を行った。両側のST29(帰来)とSP9(三陰交)へ針を5~8mm刺し、2Hz、1~2mAで電気刺激を加えた。治療は1日30分、月曜日から金曜日に行った。
実験終了後、発情期にラットを安楽死させて組織と血清を採取した。

結果
肥満群とPCOS群は、3週目から対照群と比較して体重が有意に増加した。WATが増加した一方で、BATは有意に減少していた。治療群も3週目から体重が増加したが、鍼治療開始後は減少に転じ、BATも正常化した。治療による筋肉量の変化は認めなかった。
肥満群とPCOS群では脂質異常症(TG↑、TC↑、LDL↑、HDL↓)、肝障害(AST↑、ALT↑)、インスリン抵抗性の亢進、空腹時インスリン値の上昇が認められた。しかし治療群では、これらの所見が有意に改善した。
生殖機能障害はPCOS群でのみ認められ、黄体数の減少、発情周期の異常、テストステロン値やプロゲステロン値の上昇などが確認された。PCOS+EA群では治療開始後に発情周期が徐々に戻り、黄体数やプロゲステロン値が有意に改善した。
脂肪組織において、BAT活性化マーカーであるUCP1と、交感神経活性のマーカーであるチロシン水酸化酵素(TH)は、肥満群とPCOS群で減少しており、治療群では有意に改善した。これらのマーカーをコードする遺伝子の発現にも同様の変化が認められた。
3D可視化技術により、脂肪組織における交感神経とUCP1の分布を評価した。肥満群およびPCOS群では交感神経とUCP1陽性細胞が減少しており、これらは鍼治療により回復した。また、特定の形態の交感神経は鍼治療によって再構築されやすく、その末端でUCP1陽性細胞が増加することが判明した。

結論
PCOSラットの体重増加は、WATの増加とBATの異常な減少によるものであった。帰来(ST29)と三陰交(SP9)への電気鍼治療によってBATの量は回復し、肥満、脂質代謝、生殖機能障害などが改善した。また、電気鍼治療はTHやUDP1などを介して交感神経の再構築やBATの活性化に関与していた。PCOSの治療においてはBATとその交感神経支配が重要な役割を持つことが分かった。

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