論文解説:
灸療法と鍼療法の併用によって多嚢胞性卵巣症候群患者の治療効果と生活の質が向上する RCT論文
(Journal of Integrative Nursing / Volume 3 / Issue 4 / October-December 2021; “Moxibustion plus acupuncture improves the efficacy and quality of life of patients with polycystic ovary syndrome: A randomized controlled trial”)
この研究は多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の脾腎陽虚患者の治療効果と生活の質(QOL)に対する灸療法と鍼療法の併用の効果を観察することを目的とした論文です。
研究の方法ですが、2020年1月から2021年3月まで、脾腎陽虚のPCOS患者計90名を抽出し、無作為に3群に分け、灸療法群、鍼療法群、灸療法と鍼療法の併用群に各30名ずつ配置しました。そして、肥満度(BMI)、ウエスト・ヒップ比(WHR)、空腹時インスリン(FINS)、空腹時血糖値(FPG)、恒常性モデル評価-インスリン抵抗性指数(HOMA-IR)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)、テストステロン(T)、トリグリセリド(TG)、総コレステロール(TC)、中国伝統医学(TCM)の臨床症状スコア、治療効果、QOLスコアの変化を3グループに分けて、治療前と治療後の3ヵ月間観察しました。
結果についてです。治療後、(1) PCOS患者のBMI (F = 5.274, P < 0.05)とWHR (F = 8.246, P < 0.05)の減少には、灸療法群と鍼療法群と比較して、併用群がより効果的でした。(2) FINS、FPG、HOMA-IRは3群とも減少しましたが、これら3つの指標の減少は併用群でより顕著でした。(FINS: F = 5.637, P < 0.05, FPG: F = 4.915, P < 0.05, HOMA-IR: F = 3.817, P < 0.05)。(3) 併用群の患者のFSH、LH、T値は残りの2群よりも良好でした(FSH: F = 4,163, P < 0.05, LH: F = 5.098, P < 0.05, T: F = 7.038, P < 0.05)。(4) 併用群の患者のTGとTCは、残りの2群の患者よりも低値でした(TG: F = 4.806、P < 0.05、TC: F = 3.828、P < 0.05)。(5) 併用群のTCM臨床症状スコアは、灸療法群と鍼療法群のスコアよりも有意に低値でした(F = 4.547, P < 0.05)。(6) 併用群の患者のQOLは、灸療法群、鍼療法群よりも有意に改善しました(F = 6.239, P < 0.05)。(7) 併用群の総治療有効率は、灸療法群、鍼療法群よりも高値でした(χ2 = 6.947, P = 0.031)。
以上から、灸療法と鍼療法の併用は、PCOS患者のBMIとWHRを効果的に減少させ、内分泌機能、性ホルモン値、中医学的症状、患者のQOLを改善することができます。そのため、有意な治療効果と高い安全性を有しており、広く臨床応用する価値があるという結論になりました。今回の研究では、サンプル数が少ないこと、観察期間が短いこと、そして1つの病院でしか実施していないので、今後はより結果の信頼性を上げるため、サンプルサイズを拡大し、複数の病院を組み合わせて一緒に試験を実施することが求められています。
解説:
患者のQOL(Quality of Life 生活の質)について、Quality of Life Scaleを使って調べた研究です。患者のQOLについての研究は皆無だったので、今回のように、鍼灸を受けることで、QOLの改善が期待できることは素晴らしいことです。今後、生理学的な変化だけではなく、鍼灸がQOLやメンタルヘルスにどう影響するのかといった論文が増えると良いなと思います。
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