生殖補助医療が母乳育児に与える影響について

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体外受精や胚移植など生殖補助医療(以下、ART)を受けている方で、妊娠・出産後には母乳で子供を育てたいと考えている方は少なくはないと思います。

日本では戦後から「栄養があるから」と母乳での育児が否定され、赤ちゃんに人工ミルクを飲ませて育てる事が主流になった時代もありました。現代では、WHO・UNICEFなど世界的に乳幼児の栄養に関する運動が行われ、~生後6カ月は完全母乳だけで育てる事~など「母乳育児成功のための10カ条」が掲げられています。

母乳が出ない、足りない、頻発する乳房のトラブルなど、ただでさえ母乳育児は一筋縄ではいかないものです。今回は特に、ARTを受けた方が出産後どのように母乳育児を考えていけばについて、2013年に行われた日本ラクテーション・コンサルタント協会の母乳育児学習会の講義からまとめてみました。是非参考にしていただけたらと思います。

まず日本で行われている、不妊治療の後に妊娠をされた方のその後について、新生児477.432名の症例を挙げると(2001年~2008年の8年間の登録データベースより)、ARTで出産した方はそうでない方に比べて、母体年齢などが関係し、帝王切開率、早産率が高く、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、前置胎盤、癒着胎盤の頻度が高くなっています。

次に、ART後に妊娠・分娩をされた方の母体のリスクを挙げると、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)、子宮外妊娠、多胎妊娠、流産、前置胎盤、常位胎盤早期剥離、早産と多胎妊娠による低出生体重児や先天奇形、染色体異常などの増加が報告されています。ARTで生まれたお子さんの長期間の予後は、日本では大規模な調査なされていないため不明とのことでした。

以上の結果から、母乳育児に与える影響を考えてみます。

まず、双子、三つ子などの多胎妊娠は、羊水過多や前期破水の原因となることがあり、低出生体重児やそれにともなう後遺症の問題が報告されています。そのため早産や出産後の管理入院となることも多いために、出産直後の母子が一緒にいる時間が少なくなってしまいます。

上手に母乳育児を行うためには、妊娠中から多胎児の特殊性を考慮した保険医療従事者による適切な情報提供を受け、ケアやサポート体制を知ることが大切です。子供が多いと育児が大変だから「始めから混合栄養で」と考えている方もいますが、完全母乳を目指す場合はお母さんだけでなく家族全員の協力が必要となります。

双子を産んだお母さんは二人分の母乳を出すと言われています。最初は一人ずつ飲ませ、慣れてきたら同時に飲ませることもできます。赤ちゃんには毎回同じ方から飲ませるのではなく、左右のおっぱいを交換しながら飲ませていきます。

次に、ARTによる妊娠では高齢妊娠や多胎妊娠による、32~36週の早産率が年々増加している傾向があります。早産により低出生体重児を出産した場合も、赤ちゃんのNICU(新生児集中管理室)の入院などにより出産直後から母子は離ればなれとなります。

生まれたばかりの赤ちゃんと触れ合う時間が少ないことや、赤ちゃんの身体が小さいことで、お母さんへのおっぱいへの吸着刺激が弱くなり、母乳開始のタイミングにずれが生じ、その後の母乳育児が難しくなります。母乳が出る仕組みに合わせると、出産後30分以内に赤ちゃんをお母さんの肌に触れさせてあげて、まだしっかり出ないうちからおっぱいを何度も何度も吸わせてあげることが、お母さんのホルモンに刺激を与えます。

その後も、何日も母乳がなかなかでなくても、医師や助産師さんなどにケアを受け、頻繁に吸わせられるよう母子同室でいるのが母乳育児成功のカギとなります(母乳育児成功のための10カ条より)。出産後に母子別室でいたり、すぐに母乳よりも甘いものを与えたり、哺乳瓶の乳首に慣れさせてしまうことで母乳育児を難しくさせている方も多くいらっしゃいます。

しかし、小さい赤ちゃんを産んだお母さんは未熟児用の母乳を出せると言われています。子宮で守ってあげられなかった分、母乳の中にたくさんの免疫を分泌するようです。ちょっとしか飲めない赤ちゃんに合わせ、たんぱく質、脂肪、その他栄養を通常よりも多く含み、まるでお薬のような母乳が出てきます。なので、入院中はなるべく早くから母乳をしぼって赤ちゃんに届けてあげ、可能な限り面会をして赤ちゃんに話しかけたり触れてあげることが大切です。

赤ちゃんがNICUに入院した場合は、先にお母さんが退院することが多いため、入院中に専門家の指導やアドバイスが得られにくくなり、その後の母乳育児に不安を持つことが多くなります。またその後、授乳リズムのズレなどから母親の疲労や睡眠不足の蓄積により育児ストレスはますます大きくなりがちです。その場合は、一人でなんとかしようとせずに母乳育児に力を入れている病院、助産院などを見つけ、産前産後とも専門家に相談することが大切です。

さて次に、多嚢胞性卵巣症候群(以下、PCOS)は排卵障害の原因としては最も頻度が高く、無月経を引き起こします。PCOSの病因としては

①高アンドロゲン血症
②卵胞の発育の異常
③ゴナドトロピン異常
④インスリン抵抗体

などがあります。

PCOSの方は、インスリン抵抗体と代償性の高インスリン血症により乳腺前性の母乳分泌不全を起こします。そのため不妊治療後に妊娠をされた方で、不妊治療の原因がPCOSの方は母乳分泌不全を起こす可能性があります。その場合、妊娠中から母乳育児のメカニズムを専門家に聞き産後の母乳分泌の増加が緩除であることなど、事前の情報収集が大切です。やはり、母乳育児に力を入れている病院、助産院などを見つけ、産前産後とも専門家に相談することが大切になってきます。

また、ARTによって妊娠・出産をした後に、母乳育児中に次の子の妊娠を希望し、再びARTを行う場合もあります。授乳中は赤ちゃんにおっぱいを吸われることでプロラクチンホルモンの濃度が上昇し、排卵はしない仕組みになっているため、基本は妊娠することはありません。ですが不妊治療で使用されるクロフェミン等の排卵誘発剤は授乳中も使うことができ、母乳を止めることもありません。そのため母乳育児を行いながらのARTは可能になり、妊娠もできることになります。

ただし、実際に母乳育児を行いながらARTを行う場合はお医者様と相談しながら進めることが必要です。ARTの種類や、お薬の頻度、授乳回数なども考慮しながら行います。母乳育児中に妊娠をした場合、ホルモンが変化をするため母乳の味も変化を起こします。その母乳はもう、次のお腹にいる赤ちゃんのための母乳に変わるため、みずから母乳を拒否する赤ちゃんもいるようです。

さて、今回は生殖補助医療を受けた方に注目しての母乳育児を考えてみましたが、現代では事前の知識や情報がなければ誰しも上手に母乳を与えることは難しくなっています。それは社会の問題であったり地域性の問題であったり、家族構成の変化や食生活の変化など色々な問題が考えられるかと思います。仕事を持つ女性のライフスタイルの変化も、産後の母乳を与え続ける時間を難しくさせています。地域との関わりが薄いことは育児のケアやコミュニケーションについての機会を失い、保育園待機児童の問題は有利な0歳児入園のために母乳を早期に切り上げる必要もでてきます。肩こりなど筋肉の血行不順は乳腺に悪影響を与え、特にストレスは母乳育児に大きな困難を与えています。

母乳育児を考える方は、妊娠中に早めの情報収集を地域のコミュニティや助産院、専門書などから行い、不安をなくしていくことが大切です。一人で悩まずに母乳育児に力を入れている病院、助産院などを見つけ、産前産後とも専門家に相談していきましょう。

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