以下、東洋経済オンラインより抜粋
https://toyokeizai.net/articles/-/180968
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休息、しっかり取れていますか?
「あなたは最近、心の底から安心して深く休息したことがありますか?」
そう問われて、まじめに答えを出していただければ、ほとんどの人は、「NO」という答えになることでしょう。
ええ、なるほど確かに、仕事の「休み時間」はあるでしょう。あるいは、「休みの日」もあるでしょう。夜には、「息抜きのひととき」もあるでしょう。
けれども、それはたいてい、本当の「休み」にはなっていないのです。
「休み時間」という名前だったとしても、スマートフォンで情報をやり取りしていたり、忙しく飲み食いしていたり、次にやる仕事のことを考えて段取りしていたり、嫌いな同僚のことを考えたり、仕事の失敗を思い出して後悔しているなら、頭はまったく休まっていません。
たとえ、仕事の時間の間に「空白の時間」ができたとしても、少しでもその時間を無駄にしたくないという気持ちで、スマートフォンいじりに興じるか、人と会話をするか、飲み食いをするか、さもなければ、考え事にふけるかに走りがちなことでしょう。
それらの行為には共通点があります。
仕事や日々の人間関係において、ONのときに、常時、「自らにとって得になるように!」という欲望で動き回っているせいで、欲求にまつわる脳神経細胞の回路ばかりに電気信号が通いっぱなしになるということです。そのために過剰緊張に陥り、結果、誰しもが疲れてしまっているのです。
すでに疲れているからこそ、「休み」の時間には、真に欲望のスイッチをOFFにして、心身が緊張から解放されるようにしてやる必要があると言えましょう。
「欲」のスイッチをオフにする
それなのに、休みの時間にまで、現代人の多くが、SNSで自己表現の欲求や承認欲求に夢中になり、あるいは、有益な情報を探し回ったり、これから先、どうすれば自分がうまくいくかを考えたり。
どれもこれも「欲」のことばかりで、結局は神経をすり減らしてしまっているのは、もったいないことです。
もしも、このことが納得しにくければ、自律神経の仕組みを思い起こしてみてください。
動物が標的を狩ろうとするとき、交感神経が活発化して主導権を握り、体は緊張状態になり、血圧も心拍数も上がります。こうして、何か餌を取ろうとするような心の方向性が、欲望の本質です。
私たちは狩りはしませんが、自分の得になることをしようと考えているときが、この状態と言えますね。
さて、ここで餌をとった後の動物は何をしているでしょうか。
動物は餌を食べ終えると、のんびりしてグテーッと寝転んだりするでしょう。そのときは、副交感神経が主導へと切り換わっていて、体はリラックスしきって、血圧も心拍数も、安定するのです。
大切なのは、交感神経と副交感神経とが、バランスよく活性化していることです。
ところが、現代人は常時、欲望によって多くの時間を埋め尽くしてしまいます。交感神経ばかりが異常に活発化して、副交感神経がしっかり機能しなくなっているように思われます。
常時「何か得になるモノ・情報・考えなどを手に入れたい!」と興奮しているものですから、なかなか寝つけない人も多いようですね。
副交感神経が活発化してリラックスしきることと、睡眠は密に結びついていますので、交感神経ばかりを興奮させていると眠れなくなるのは、当然の結果と言えるでしょう。
では、しっかりと深く休息しきるには、どうすれば良いでしょうか。
私は布団に入ると割合にスッと容易に眠りに落ちて安眠できるものですが、布団の中で「眠ろう!」とか「眠りたい!」などと思ってはいません。
もしも、「眠りたい!」と思うことに必死になるなら、「早く眠って休みたい」という欲望が強く働く結果として、交感神経か副交感神経のどちらの自律神経が活発になるでしょうか? もちろん、興奮にかかわる交感神経が活発化しますよね。ですから、皮肉にも、いっそう眠れなくなるでしょう。
深く休息するためのヒントが、ここにあります。
「こうしよう」「こうなろう」「ああなりたい」「あれを得たい」「これを得たい」と、あれやこれやを願望するのを、ふいっと手放してしまうことなのです。
そうしたいと思ったとしても、頭の中では仕事のことや、嫌いな人のことや、将来の願望などが渦巻いて、いっこうに欲望が静まらないこともあるでしょう。
そんなときは、どんな考えが湧いてきても、まるで頭の中の小人たちがピーチクパーチクおしゃべりし続けているのを聞き流すようなつもりで、考えを相手にしないようにしてみてください。
そう、たとえばこんな具合に。
「明日こそ順序よく、まちがえないようにしなきゃ。でも、自信ないな」
→「へー、そっかー。そう思うんだ、ほー」
「あの人に会うの、嫌だな。何考えているのかわからないし、不機嫌に黙り込むし」
→「そっかー。そう思うんだね、ふーん」
と、こんなあんばいです。
どんな考えもまともに執着せずに、右の耳から入って左の耳に抜けてゆくかのようにフワーッと流していたら、気にならなくなってくるでしょう。
考えが心に引っかからなくなったら、100個の考えが生じていても、実質的に何も考えていないのと同じことです。ですから、考えがいろいろと通り抜けてゆく真っただ中でも、堂々とのんびり安眠できるはずですよ。
ただし、安眠できるかどうかは、布団に入ってから決まるわけではなくて、一日を通してどのような精神生活を送ってきたのかが、重要な役割を果たしています。
一日を通じて何かを追い求め、交感神経ばかりが主導権を握るような生活をし続けてきたのに、夜になって急に副交感神経が働いてくれる、というように都合よくはいかないのです。
日中を通してほどほどに、リラックスにまつわる副交感神経が活性化するような時間を保つことが大切なのです。
「休息しきる」ためにやるべきこと
では、休息するには、具体的にはどうしたらいいでしょうか。「何かをする」のではない時間を、少しでも良いので、持つようにすることがお勧めです。
電車の移動時間や、仕事の休憩時間や、帰宅して食事を済ませた後や、お風呂で湯船につかっているとき、などなど。そうしたとき、何か有用な情報を得たいとか、誰かとつながりたいとか、欲望を刺激する情報ツールのスイッチを入れるのは、控えてみましょう。
また、これからの予定を立てようとするのも、漫画を読むのも、好きな音楽を聞くのもやめておきます。それらによって、「これから○○しよう」という期待や欲求を刺激する癖がついているのを、ちょっとの間でも控えてみるのです。
すると、そこに生じる「空白」が手持ちぶさたすぎて、誰かと電話かメールをしたくなったり、もしくは、何かをバクバク食べたり、飲んだりしたくなる人もいるかも、しれませんね。
そうです。普段は、この「空白」の物寂しさをごまかすために、ひっきりなしに次から次に、承認欲求の刺激やドギツイ飲食や音楽や娯楽の刺激や、さらに仕事の成功や失敗の刺激を入力し続けてきたのです(それゆえ、安らぎません!)。
そうした状況に慣らされすぎているなら、「空白」の時間は初め、居心地が悪く、寂しく感じるかもしれません。けれども、ほんの数分間や数十分間だけでも、「何か好ましいもの」を追い求めない時間を持っているなら、心がホッとして、くつろぐのが段々とわかってくるはずです。
「何か好ましいもの」を追い求めていないとき、心は「今」そのものの中に休みます。副交感神経が、しっかり活動してくれ、心身ともにバランスよく休息してくれるのです。
ただし、「空白」の時を持とうとしても、頭の中には勝手に、先述の「小人たち」のおしゃべりが騒ぎ出すことも、しばしばあるでしょう。そんなときも、そのおしゃべりを止めようとムキにならないのが重要なポイントです。
止めようとすると、「静かになりたい」という欲望がうるさくなりすぎて、いっそう興奮してくるだけですから、ね。「静かになりたい!」「休みたい!」というのもまた、うるさいおしゃべりの1つにすぎないのです。
そんなわけで、「あー、今日は〇〇だったなあ」と思っても、「へー、そっちの小人はそう思うんだー」と、スルーします。「早くリラックスしたいのに、心がうるさいなあ!」と感じても、「へー、あっちの小人はそう思ってるんだー」とでも、スルーしてしまうのです。どんな考えが頭の中を通っていっていても、あるがままに、のんびりとスルーしておくのです。
ここで考えを「スルーする」と申しているサジ加減は、実は初めての方には、なかなか難しいかもしれません。が、考えにとらわれないようにする心の柔らかさは、何をするにあたっても大切なことなので、これについては、また改めて、詳述することにいたします。
欲望の侵入してこない「空白」を持つ
考えをスルーする、というのが難しければ、せめて、何もせずにリラックスしてポヤーンと、いわゆるボーッとする感じにしてみると、けっこう心が安まるでしょう。
ともあれ、こうして「こうしたい」「ああしたい」という興奮の欲望の侵入してこない、「空白」ないし、空白に近い時間が持てるなら、とっても深くリラックスして、息ものんびりスヤスヤしてくるのが、体感できることでしょう。
それが感じられれば、いつもの「休憩」が、いかに「休んでいるつもり」だっただけで、リラックスやくつろぎから遠かったのかも、と改めてわかると思います。
そして、質の高い「何もしない時間」の休息があってこそ、メリハリをつけて今度は、全力で精進できるものです。副交感神経もちゃんと活発化させているからこそ、交感神経のみが暴走することもなく、バランス良く集中力や冷静さを保って、活動することもかなうのですよ。そう、こうして交感神経と副交感神経がどちらもしっかり働いてくれてこそ、疲れることなく仕事に専念することができるのです。
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