2015年12月に不妊治療の最新治療として「オーグメント療法」が日本産婦人科学会倫理委員会にて臨床研究として承認されたとニュースがあり、卵子のアンチエイジングが可能となる!?と話題になりましたが、翌月の2016年1月には関西のクリニックで実際に治療が開始されました。
オーグメント療法(Autologous Germline Mitochondrial Energy Transfer (AUGMENT)) とは、卵子の中にあるミトコンドリアが卵子の質と大きく関与している事に着目し、自分の卵巣組織から卵子前駆細胞を抽出し、その細胞から元気の良いミトコンドリアを取り出し、顕微授精時に精子と共に注入する卵子の働きを活性化させ、妊娠しやすくするという方法です。
ミトコンドリアって、学生時代に生物の授業で聞いたことがあるような・・という方も多いと思います。
最近は、不妊治療以外でも様々な病気の原因と深く関わっている重要なキーワードとして、多方面でミトコンドリアの活性化が話題になっているので、あちこちで耳にする機会があると思います。
ミトコンドリアとはいったい何者なんでしょうか。
ミトコンドリアとは、全身の細胞ひとつひとつの中にある小さな袋状の器官です。
一つの細胞の中には平均数百個のミトコンドリアが存在し、エネルギーの合成を行っています。
新しく生まれ変わる細胞を作ったり、細胞を修復するためにはミトコンドリアが作り出すエネルギーが欠かせません。ところが、ミトコンドリアが半減してエネルギー不足だったり、質の悪いミトコンドリアによって、活性酸素が大量に発生していると、細胞の老化は加速していきます。
栄養不足、運動不足、ストレス、飲酒、喫煙など悪い生活習慣でミトコンドリアの働きが衰えてしまうと、十分なエネルギーが確保されず、どんどん古い細胞や弱った細胞が増えていってしまいます。
これが、様々な病気の根本的な原因になると考えられています。
体外受精や顕微授精でもなかなか妊娠に至らない場合、よく「卵の質が悪いから」という言い方をします。
卵子の核に問題がある場合は、染色体に関係するので、着床前診断などで染色体に異常のないものを選ぶしか方法はありませんが、細胞質に問題がある場合には、ミトコンドリアを元気にすることで、卵子の質を改善できるという考え方ができます。
卵子の中には10~20万個のミトコンドリアがあり、成熟するとき、精子と出会うとき、胚分割をするとき、着床するときにもミトコンドリアが作用していることがわかっています。
子宮内膜に存在するミトコンドリアも、着床の際には重要な働きをします。
ミトコンドリアを活性化する方法として、オーグメント療法は画期的な方法ですが、私たち自身が毎日の生活習慣の中で質の良いミトコンドリアを増やしていくことも可能です。
では、今すぐ!身近に取り組めることにはどんなことがあるでしょうか。
① ややきつめの有酸素運動
ミトコンドリアを増やす方法として最も有効だといわれているのが、ややきつめの有酸素運動です。
エネルギーが枯渇した状態はミトコンドリアにとって、働くぞ!というタイミング。
運動する前はなるべく食事をとらず、ミトコンドリアが多く含まれる赤筋を使うウォーキングやランニング、
サイクリングやヨガなど(持久力を必要とする運動)も効果があるそうです。
いずれも自分のライフスタイルに合わせて、自分が興味のある継続できそうな運動を始めてみましょう。
② 背筋を伸ばしていい姿勢を保つ
ミトコンドリアの8割が筋肉に集中しており、特に大きな筋肉、姿勢を保つための筋肉でもある背筋と太ももにたくさん含まれています。デスクワーク中心で、仕事中、体をあまり動かさない方も、背筋を伸ばすように気をつけ、正しい姿勢を保つように心がけましょう。
③ 腹8分目の食事
空腹感を感じることが、ミトコンドリアを増やすことが分かっています。普段から食べ過ぎていると感じている人や、間食が習慣化している人、早食いをしてしまう人は、腹八分目を基本にゆっくり噛むことを意識して食べ過ぎを減らしましょう。特に早食いは、老化を促進させる活性酸素をつくり出してしまうので禁物です。
④ からだを冷やさない
ミトコンドリアの働きには「温度依存性」があり、ある一定の温度でないと活性化せず、働きません。
その温度が37度。体内の温度がそれ以下になると、働きが鈍ってしまいます。
薄着や、冷たいものの飲食を避け、お風呂は湯船に浸かってしっかり体の芯から温めましょう。
ミトコンドリアがイキイキと活性化し、細胞の新陳代謝がスムーズに行われます。
⑤ タバコはすわない
タバコのニコチンは、血管を収縮させ、血行を悪くします。そのため酸素と栄養をミトコンドリアに届けることができなくなってしまいます。さらに、喫煙により発生する活性酸素がミトコンドリアにダメージを与えてしまいます。
生活の質=ミトコンドリアの質。元気なからだは元気な細胞の証拠。
不妊治療を考えると、意識は子宮や卵巣のことばかりに向かいがちですが、卵子も細胞の一つです。
私たちのからだの細胞の一つ一つが最大限のパワーを発揮できるように、今日から早速できることを始めてみましょう。
参考資料 健康ジャーナル社「ミトコンドリア健康法」
鍼灸師 中嶋 恵子
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