近年、不妊症で鍼灸治療を受けられる方が急増しています。
なぜそんなに不妊症の方が増えたのでしょうか? 理由のひとつとして、ライフスタイルの変化があげられます。
子作りを考える年齢が、親や祖母の世代と比べると高くなりがちなのです。
また、キャリアを持つ女性が増え、男性と同等に残業など不規則な生活を強いられ、昔より多くのストレスにさらされています。
女性ホルモンはごく微量で身体に作用するのですが、逆にいえば強いストレスなどで分泌に変化が起こりやすいのです。
これらの理由からなかなか妊娠できなかったり、妊娠しても流産を繰り返す方が増えているのを実感しています。
アキュラ鍼灸院では、不妊症などのトラブルの原因となることが多い黄体ホルモンの欠乏に注目し、ホルモンバランスを取り戻すためのライフスタイルに役立つコラムをご紹介しています。
赤ちゃんが欲しい方、現在妊娠されている方の妊娠しやすいカラダづくりのお役に立つと幸いです。
赤ちゃんがほしい!そのために自分でできること
「赤ちゃんが欲しい」と思い立ったら、西洋医学的にも、中医学(漢方)的にも、自分が今、どういう状態かをチェックしておくことが重要です。 中医の婦人科の先生は、患者さんの脈を診たり、舌を見たり、体格や、目、姿勢などを見て様々な情報を得ます。 また、睡眠や、食生活、お通じ、ストレスの程度、また生理の状態も、色、量、期間、質(濃厚か薄いか、塊があるか)など詳しく尋ねて総合的に診断するのです。
また、自分の状態を自分で把握する方法として、基礎体温があります。 婦人科に定期的に通っている皆さんは、もうすでに記録をされているかもしれませんが、まだの方は朝起きたら体温を測る習慣をつけるとよいでしょう。 慣れないと面倒になったり忘れたりしがちですが、その日は空欄でも構いません。とにかく始めてみましょう。アキュラ鍼灸院オリジナルの排卵予測・基礎体温表は以下からダウンロードできます。
基礎体温を測ると、そこから様々なことが分かります。 低温期は卵巣の中の卵胞細胞が大きく育って卵になってくる時期です。通常、低温期は生理がはじまってから13-14日日間程度。低温期の最後の日に体温は更に下がり、排卵されると今度は体温が急激に上昇します。卵子の寿命は24時間以内、精子の寿命は2,3日とされていますので、タイミングを合わせるのであれば排卵予定日の2日前から排卵日のあたりがよいでしょう。 高温期は、体温が高くなる、生理周期後半の時期のことです。この時期は受精した卵が分割・成長するための大切な時期です。基礎体温表がキレイな形の高温期になることを目指して養生しましょう。
不妊はホルモンのバランスが原因?
「妊娠しやすい体」とは、ホルモンのバランスの取れた体です。女性の生理に関わるホルモンには卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)がありますが、なかでも多くのホルモンの原料となっている黄体ホルモン(プロゲストロン)の欠乏が、不妊症などのトラブルの原因であることが多いのです。
ここでホルモンのしくみについてお話しておきましょう。女性ホルモンは卵巣だけが関係するのではなく、脳の視床下部や下垂体から命令が出され、その命令を受けて卵巣、子宮が働くという階層的なしくみになっています。つまり、大切なのは脳からの指令なのです。
では、なぜ現代女性の女性ホルモンは狂いがちなのでしょうか?人間はストレスを感じると、「副腎皮質ホルモン(コルチゾル)をたくさん作れ」という命令を脳から出します。ストレスが続くと、他のホルモンを作る原料まで、この副腎皮質ホルモン製造のために使われてしまうのです。 もちろん、体は残された原料でなんとか女性ホルモンを作ろうとするのですが、どうしてもエストロゲンとプロゲステロンのバランスが崩れがちになってしまいます。
エストロゲンは卵を育てるホルモンで、プロゲステロンは排卵した後のいわば“卵の殻”から分泌されるホルモンです。エストロゲンの分泌が少ないと卵が育たず、結果として排卵も起こりません。当然、プロゲステロンも分泌されず、どうしてもエストロゲンが優勢になってしまうのです。生理痛、無排卵性月経など、昔はあまり耳にすることのなかった症状の原因の多くは、このホルモンのアンバランスにあると考えられます。
自然治癒力を高めて妊娠しやすいカラダに
現代人の自然治癒力は、低下しているといわれます。 東洋医学では、健康な人は、正気(生命力あるいは抵抗力)が豊富に備わっていると考えます。正気が豊富だと体力が充実し、体も軽く、前向きな気持ちで毎日を過ごすことができます。これこそが健康で妊娠しやすい体だともいえます。
正気がある人は、目に力があり、声がはっきりと通り、顔の色艶と姿勢がよく、元気が満ちています。こうした人はお通じの悩みもなく、食欲も適度にあり、夜はぐっすり眠ることができます。季節や天候、環境などの急激な変化にもちゃんと適応でき、仕事やプライベートでもある程度のストレスもはね返せるのです。
ストレスが多く運動不足で、仕事などで無理をしがちな現代人は正気が不足し、抵抗力が弱く、体調を崩しがちです。ただし、まわりの環境がどうあれ、あなた自身の小さな努力によって体調を整えることは可能です。妊娠しやすい体作りは、空調によって生じがちな屋外と室内の温度差をなるべく小さくしたり、ストレスを溜めすぎず、夜更かしを避け、できる限り規則正しい生活をしようと心掛けからはじまります。なかなか自分一人では生活管理がしにくいという人は、生活の中に東洋医学を取り入れ、定期的に体のケアをしながら、生活のアドバイスや管理を受けていくことをおすすめします。
食生活をチェックしよう
毎日の食生活を振り返ってみましょう。一人暮らし、共働き、習い事や子育て、介護などで忙しい方も多いことでしょう。次の項目をチェックしてみてください。
- 食事の時間が不規則(1日2食以下/1日3食だが毎日違う時間/夜の食事は夜11時以降)
- 早食いの癖がある
- 冷え症なのにサンドイッチ、生野菜、牛乳などの冷たいものばかり食べている
- 吹き出ものがあり、便秘になりやすい。暑がりなのに、油っこく味付けの濃いものや甘い物、インスタント食品、ファーストフードなどをよく食べている
- 唐辛子を多量に使った激辛料理や、多量のアルコールなど刺激の強いものを多く摂っている
- テレビなどで「この食べものがよい」といわれると、そればかり食べる
- コーヒーを1日2杯以上飲む
食事の時間が不規則だと、体は次にいつ栄養を摂れるか分からないと考えて、必要以上に栄養をため込むので太りやすくなります。また、夜10時以降に食事をすると、分泌されるたんぱく質の関係で、同じ量を食べても脂肪がつきやすくなります。本来、深夜の時間帯は胃腸の粘膜の修復のために使われるべきものなので、胃腸はいわば残業をしいられ、メンテナンスに手が回らない状態に。朝起きたときに胸焼けがしたり、消化器が残業しているせいで睡眠の質まで低下してしまうのです。
冷え症なのに、体を冷やす食べものばかり食べたり、体に熱がこもっているのに肉類や、油っぽくて味付けの濃いものばかりを食べ続けることは、身体のバランスを崩す原因になります。また、刺激物のとりすぎも胃腸に負担をかけます。ある一種類の物だけを集中して食べること(いわゆる「だけ食い」)も、身体のバランスを崩す原因になりかねません。
バランスよくいろいろなものを食べる、消化しやすく、薄味のものをよく噛んで食べることが、身体を整える近道!身体のバランスが整うことで、嗜好まで変わることもあるのです。どうしても自分では食生活を変えられないという方は、生活の中に東洋医学を取り入れ、生活のアドバイスや管理をお願いするのもよいでしょう。
日本の風土にあった食事を
中医学を学ぶと、最初に「整体観」という言葉に出会います。簡単に説明すれば「人は自然の一部であり、人もまたひとつの小宇宙を形成している」という考え方です。人と自然との調和、人と人との調和、体と心の調和が自然や宇宙の基本であり、またそれが健康の基本でもあるということです。そして日本には昔から「身土不二」という言葉があります。「人の体は生まれ育った土地と分けることはできない」、転じて「人は暮らしているその土地の食べものを食べることで、健康でいられる」という意味で知られています。
日本人は昔から伝統的に、米や雑穀を主食とし、副食として野菜や魚介類を食べる生活を続けてきました。そして、この食生活が日本人の寿命を延ばしてきたとも考えられています。伝統的な食生活は、この国での生活に適した食生活なのです。日本人と日本に移住した外国人にとって、日本人が伝統的に食べてきたものを、バランスよく、規則正しく食べることが最適であると言えます。もちろん食事は楽しくいただくことが大切ですので、和食だけでなく、エスニック料理やイタリアン、中華などの調理法もいいでしょう。でも、油や香辛料が強い食事で胃腸が疲れたと思ったら、基本である和食に戻すだけでも、それが立派な食事療法になります。
また、季節ごとの旬の食べものをいただけば、自然からのパワーを受けとることができます。季節感のある和食をベースに、バランスを整えていくのが東洋医学の考え方です。また、ひとつの味や、ひとつの食品に偏らないために、1回の食事に五味(酸っぱい、苦い、甘い、辛い、塩辛い)や、五色(赤、青、黄、白、黒)が揃うように心掛けてみるのもいいでしょう。
乳製品と油の摂りすぎに注意
牛乳は本来、牛の赤ちゃんが飲むためのもの。 それを人間の大人が飲むのですから、当然栄養過多になります。 また日本人には、牛乳の蛋白質を分解する酵素を持っていない人が半数以上いるといわれています。 分解酵素がないと胃腸への負担が高くなりがちですので、牛乳が体質に合わないと感じる場合には、小魚や豆腐、ひじきやアーモンドなどの食品からカルシウムを摂取するようにしましょう。 ちなみに牛乳に含まれるカルシウムは100mlに100mgですが、体内での吸収率は50%です。 小魚は10gに140mgで30%の吸収率、ほうれん草は100gに55mg含まれますが吸収率は17%です。 またカルシウムの吸収率は、ほうれん草などに含まれるビタミンD、卵や肉などのタンパク質と合わせることで高まります。
次に、油について考えてみましょう。 最近聞かれるようになった「トランス脂肪」とは、水素を添加し高温処理した特殊な油で、マーガリンやスナック菓子、ファーストフードなどに使われてきました。 トランス脂肪は酸化しにくく安定しており、企業側としては扱いやすい油です。 しかし、一度人体に入ると二度と分解されず、善玉コレステロールを減少させ、動脈硬化の原因になり、さらには女性のホルモンのうちエストロゲンだけを増やし、ホルモンバランスを狂わせるといわれています。
アメリカや一部のヨーロッパ諸国では、健康に対する配慮から、この油の使用率を下げるよう規制が強まっています。 ニューヨークでは、2006年12月初めに、市内の飲食店でトランス脂肪の使用が規制されました。 日本ではまだトランス脂肪に対する規制は始まっていませんが、今のところは自分で自分の身を守るしかないのです。 マーガリンやショートニングにも使われていますから、ファーストフード、スナック菓子、インスタント食品などはなるべく摂らないよう心がけましょう。
コーヒーと流産の危険性
カフェインの妊婦に対する有害性は、以前からアメリカのさまざまな論文が出されており、妊婦のみでなく、コーヒーを飲むことによって、妊孕性(妊娠する力)が低下して、コーヒーを飲まない人と比べると妊娠率が低下することが知られています。
2008年には、「1日に2杯以上コーヒーを飲む妊婦は飲まない人と比べ、流産の危険が2倍になる」という調査結果が、アメリカ最大の会員制健康医療団体「カイザー・パーマネント」(カリフォルニア州オークランド)の研究チームによって明らかになりました。 米産婦人科ジャーナルに掲載された論文によると、研究チームは1996年10月から1998年10月にかけて、サンフランシスコの1063人の妊婦を調査。その結果、1日にコーヒー2杯分に相当する200mgのカフェインを摂取した妊婦は、カフェインを取らない妊婦と比べ、流産する割合が2倍に高まったそうです。コーヒーだけでなく紅茶などを通じ、カフェインを摂取した妊婦も流産の危険が高かったことから、研究チームはカフェインが原因物質と結論付け、カフェイン摂取は胎盤の血流減少などを引き起こし、これらが胎児に悪影響を与える可能性があるといいます。
当院の患者様でコーヒーを多くの飲む人において共通していることは、冷えが強く妊娠に関連する3つの経絡(肝、腎、膀胱)にも冷えが現れていることです。体が冷えることにより熱を発生させるため体は震え、体の熱を奪われないようにと余分な水分が尿として体に放出されます。また、カテコールアミンやカフェインは肝臓で分解しなければならないため、肝臓に負担をかけ、瘀血を生みます。妊娠をお考えの方、もしくは妊娠初期の方のコーヒーの摂取は、万全を期すのであれば控えたほうが無難でしょう。
無排卵で悩んだら…
無排卵の場合、基礎体温は高温期と低温期の差がない波形になります。排卵をさせる必要がありますが、食生活の改善だけでそれを実現させるのには若干の無理があります。鍼灸の治療と並行し、婦人科の病院で治療を受け、排卵を促進してもらうか、または婦人科系のトラブルに強い相談薬局で適切な漢方薬を購入し、服用することも助けになります。
また、近年では西洋医学の病院でも漢方薬による治療、なかでも周期療法を取り入れているところが増えています。これは生理周期をいくつかのブロック(生理期、低温期、排卵期、高温期)に分け、それぞれ違う漢方薬を処方することで排卵を誘発したり、基礎体温を理想に近づけ、妊娠するように導く治療法で一定の効果を上げています。
もしこの周期療法を食事によって行うとすれば、出血のある低温期には無理をせず、気血を補います。低温期には卵子を育てるのに必要な栄養を摂り、排卵後の高温期には腎の働きを高める食事を摂るように心がけてみてください。
おすすめの食材は?
中医学的な視点から、妊娠前・妊娠中にオススメの食べものを表にまとめました。妊娠前・妊娠中には、脾、腎、血と呼ばれる要素を大事にするとよいといわれています。そこで脾、腎、血を補う食材と、“安胎”といって胎児を安定させるのによい食材もあげておきます。
脾(ひ)を補う
ナツメ リンゴ 鶏肉 山芋 きんかん 雑穀類(丸麦 高きび もちあわ ひえなど)
腎(じん)を補う
黒ごま 黒豆 黒米 山芋 きくらげ 枸杞(くこ)の実 海老(桜エビなど手軽で良い) ニラ
血を補う
ナツメ 枸杞(くこ)の実 きくらげ 牡蠣 レバー ほうれん草等
安胎(あんたい)
シソ・レモン・ぶどう等
妊娠前や妊娠中は、アイスクリームや冷たいお茶やジュース、西瓜、冷麺ばかりを食べると、体を極端に冷やすことになります。 逆に大量の唐辛子や、油っこいもの、ニンニク ニラ、胡椒や山椒、シナモンなどスパイス類を多用すると、体に“湿熱”が溜まりやすいので避けた方がよいでしょう。 もちろん食欲増進のために少量を掛ける程度なら大丈夫。また、身体を温める温熱性の食べ物を食べるときは、身体を冷やす働きのある物と組み合わせるように心がけましょう。
体を温める食材や生薬
胡椒 唐辛子 花椒(中国の山椒) 羊肉 くるみ 鶏肉 えび ニンニク 生姜 ねぎ ニラ 黒糖 桃 高麗人参 肉桂 紅花など
体を冷やす食材や生薬
小麦 ほうれん草 蟹 アサリ タコ トマト 茄子 キュウリ ゴボウ 苦瓜 大根 海苔 冬瓜 西瓜 マンゴー バナナ 柿 緑豆 はと麦 菊花など
偏りがない性質(平性)の食材や生薬
とうもろこし 大豆 黒豆 卵 豚肉 鴨肉 スッポン 木耳(きくらげ) 蜂蜜 米 シイタケ しめじ ジャガイモ にんじん 里芋 サツマイモ キャベツ など