体から心を落ち着かせる「タッピング」というセルフケア
妊活中は、採卵、移植、判定日、検査結果、流産の経験など、心が大きく揺れる場面が何度もあります。
「前向きに考えよう」と思っても、胸がざわざわしたり、眠れなくなったり、病院に行く前から体が緊張してしまうこともあります。
そうした妊活中の不安やストレスケアの方法のひとつに、EFTがあります。
EFTとは、Emotional Freedom Techniquesの略で、感情に意識を向けながら、顔や胸まわりのポイントを軽くトントンと叩いていく方法です。一般的には「タッピング」とも呼ばれています。
言葉で気持ちを整理するだけでなく、体への刺激を組み合わせることで、緊張した神経を落ち着かせていくセルフケアです。
EFTで使うポイントは鍼灸のツボに対応しています
EFTでタッピングするポイントの多くは、鍼灸で使われる「ツボ」、つまり経穴に対応しています。
鍼灸では、体質や症状に合わせてツボを選び、鍼やお灸で刺激します。
一方、EFTでは鍼を使わず、自分の指でツボ周辺をやさしくトントンと刺激していきます。
たとえば、EFTで使われる代表的なポイントは、次のようなツボに近い場所です。



つまりEFTは、鍼を刺す代わりに、指でツボをやさしく刺激しながら、心と体の緊張をゆるめていく方法と考えると分かりやすいです。
ただし、鍼灸治療のように体質を詳しく見立ててツボを選ぶわけではありません。
EFTでは、不安や感情に意識を向けながら、決まったポイントを順番に刺激していくのが特徴です。
妊活中の不安は「気の持ちよう」ではありません
妊活では、自分ではコントロールできないことがたくさんあります。
卵子の数、受精、胚の成長、着床、妊娠継続、判定結果。
どれだけ努力しても、すべてを自分の力だけで変えることはできません。
そのため、妊活が長くなるほど、心と体は知らないうちに緊張しやすくなります。
たとえば、
- また陰性だったらどうしよう
- 採卵が怖い
- 移植後、何も手につかない
- 流産の記憶がよみがえる
- 妊娠報告を聞くと心が苦しくなる
こうした反応は、心が弱いからではありません。
過去のつらい経験や、先が見えない不安に対して、体が自分を守ろうとしている反応でもあります。
だからこそ、妊活中のケアでは、考え方を変えるだけでなく、体の緊張をゆるめることも大切です。
EFTが妊活中のストレスケアに役立つ理由
EFTは、不安や緊張を感じているテーマを思い浮かべながら、特定のポイントを軽くタッピングしていきます。
これにより、感情を無理に抑え込むのではなく、体の反応を落ち着かせながら、その感情を少しずつ整理していくことを目指します。
妊活中は、頭では分かっていても、体が反応してしまう場面が多くあります。
- 「大丈夫」と思いたいのに、判定日が近づくと眠れない。
- 「気にしないようにしよう」と思っても、妊娠報告を聞くと涙が出る。
- 「次に進もう」と思っても、過去の陰性判定や流産の記憶がよみがえる。
このようなとき、EFTは心だけでなく、体の緊張やストレス反応に働きかける方法として取り入れやすいケアです。
研究では、EFTがPTSD、不安、ストレス症状の軽減に役立つ可能性が報告されています。
また、ストレスホルモンであるコルチゾールの低下や、恐怖・不安に関わる脳の反応に変化が見られたという報告もあります。
もちろん、EFTが妊娠率を直接上げるとまでは言えません。
しかし、妊活中に高まりやすい不安や緊張をやわらげ、心と体が安心しやすい状態をつくるサポートとしては、意味のある方法だと考えられます。
EFTで「今」に意識を向ける理由
EFTでは、「今感じている不安」「今ある胸のざわざわ」など、現在の体と心の反応に意識を向けます。
これは、過去の出来事を無理に掘り起こすためではありません。
その出来事を思い出したときに、今の自分の体に起きている反応をやさしく落ち着かせるためです。
たとえば、流産や陰性判定の記憶がつらい場合、出来事そのものは過去のものです。
でも、その記憶を思い出したときに、
- 胸が苦しい
- 涙が出そう
- お腹が重い
- また同じことが起きる気がする
- 体が緊張する
という反応は、今の体に起きています。
EFTでは、この「今起きている反応」に名前をつけてタッピングします。
そうすることで、脳と体が「今は安全だ」と認識しやすくなり、過去の記憶に引っ張られすぎずに、神経の興奮を落ち着かせやすくなります。
つまり、「今」に意識を向けることは、過去に戻りすぎないための安全装置でもあります。
無理にポジティブになる必要はありません。
- 不安を感じている
- 胸がざわざわしている
- 体が緊張している
- この反応を少しゆるめていく
そのように、今の体と心に起きていることをそのまま認めることが、EFTの第一歩です。
EFTの基本的なやり方
EFTは、特別な道具を使わず、自分の指で行うことができます。
基本の流れは、次の通りです。
- 今感じている不安や感情をひとつ選ぶ
- そのつらさを0〜10で確認する
- セットアップフレーズを言いながら、手の側面を叩く
- 顔や体のポイントを順番にタッピングする
- 深呼吸して、もう一度つらさを確認する
- 必要であれば繰り返す
順番に見ていきましょう。
① 今感じている不安や感情をひとつ選ぶ
まず、自分の中にある感情をひとつ選びます。
たとえば、
「判定日が近づくと不安」
「また陰性だったらどうしようと思う」
「採卵が怖い」
「移植後、結果を待つのがつらい」
「流産の記憶を思い出すと胸が苦しくなる」
「周囲の妊娠報告を聞くと心が揺れる」
このように、いちばん気になっている感情をひとつだけ選びます。
感情をうまく言葉にできない場合は、体の感覚から始めても大丈夫です。
「胸がざわざわする」
「お腹が重い」
「喉が詰まる感じがする」
「肩に力が入っている」
「涙が出そう」
EFTでは、きれいな言葉にする必要はありません。
感じていることを、そのまま扱っていきます。


② つらさの強さを0〜10で確認する

次に、その感情や体の感覚がどれくらい強いかを、0〜10で確認します。
0は、まったく気にならない状態。
10は、とてもつらい状態です。
たとえば、
「判定日の不安は8くらい」
「採卵への怖さは7くらい」
「妊娠報告を聞いた後の苦しさは9くらい」
というように、自分の感覚で数字をつけます。
この数字は正確でなくてかまいません。
EFTを行った後に、少しでも変化があるかを確認するための目安です。

③ セットアップフレーズを言いながら、手の側面を叩く
次に、手の側面を反対の手の指で軽くトントンと叩きます。
ここで叩く場所は、小指側の手の側面です。
手を軽く開いたときに、小指の付け根から手首に向かって続く、手の外側のラインです。

ちょうど、空手チョップをするときに相手に当たる部分、つまり小指側の手刀部分です。
小指の真下の一点だけではなく、小指の付け根から手首寄りにかけての、手の側面のやわらかい部分をトントンと叩きます。
強く叩く必要はありません。
反対の手の人差し指、中指、薬指あたりで、痛くない程度に軽くタッピングします。
ここを叩きながら、次のような言葉を3回ほど繰り返します。
「私は、判定日が近づくと不安だけれど、それでもこの不安を認めます」
または、
「私は、またダメだったらどうしようと感じているけれど、この緊張を少しゆるめていきます」
採卵前であれば、
「私は、採卵のことを考えると体が緊張するけれど、この体の反応をやさしく落ち着かせていきます」
流産や陰性判定の記憶がつらいときは、
「私は、過去のつらい経験を思い出すと苦しくなるけれど、この胸の苦しさを少しずつゆるめていきます」
ポイントは、無理に前向きな言葉にしないことです。
「不安なんて感じない」
「絶対に大丈夫」
と無理に言い聞かせる必要はありません。
まずは、今ある感情を否定せず、
「そう感じている自分がいる」
と認めることが大切です。
言葉がしっくりこない場合は、
「不安を感じています」
「胸が苦しい感じがあります」
「この緊張を少しゆるめていきます」
というシンプルな言葉でも大丈夫です。

④ 顔や体のポイントを順番にタッピングする
次に、以下のポイントを順番に軽く叩いていきます。
1か所につき5〜7回ほど、やさしくトントンと叩きます。
叩く強さは、痛くない程度で十分です。
タッピングするポイント
- 眉頭
- 目の横
- 目の下
- 鼻の下
- あご
- 鎖骨の下
- わきの下
- 頭のてっぺん

それぞれの場所を叩きながら、短い言葉を繰り返します。
たとえば、判定日への不安であれば、
「この不安」
「またダメだったらという怖さ」
「胸がざわざわする感じ」
「結果を待つのがつらい」
「体が緊張している」
「この不安を少しゆるめたい」
というように、感じていることを短く言葉にします。
文章として整っていなくても大丈夫です。
その時に出てくる言葉を、そのまま使います。

⑤ 深呼吸して、もう一度つらさの強さを確認する
次に、以下のポイントを順番に軽く叩いていきます。
1か所につき5〜7回ほど、やさしくトントンと叩きます。
叩く一通りタッピングが終わったら、ゆっくり深呼吸をします。

そして、最初に確認したつらさの強さを、もう一度0〜10で確認します。
たとえば、最初は8だった不安が、6になっているかもしれません。
数字は変わらなくても、胸の苦しさが少し軽くなっていることもあります。
変化が小さくても問題ありません。
EFTは、1回で感情を完全に消すためのものではありません。
体の反応を少しずつ落ち着かせていくための方法です。

⑥ 必要であれば、もう一度繰り返す
まだ不安や緊張が残っている場合は、同じ流れをもう一度繰り返します。
2回目は、言葉を少し変えてもかまいません。
たとえば、
「まだ少し不安が残っている」
「でも、さっきより少し呼吸がしやすい」
「この残っている緊張も、少しずつゆるめていきます」
というように、状態に合わせて言葉を変えていきます。
EFTでは、最初に決めた言葉にこだわりすぎず、感情の変化に合わせて調整していくことが大切です。
妊活中に使いやすいEFTの例
判定日前の不安に対して
セットアップフレーズ:
「私は、判定日が近づくと不安でいっぱいになるけれど、この不安を認め、少しずつ体をゆるめていきます」
タッピング中の短い言葉:
「この不安」
「結果が怖い」
「また傷つくのが怖い」
「期待したいけど怖い」
「胸がざわざわする」
「この緊張を少しゆるめます」

採卵前の緊張に対して
セットアップフレーズ:
「私は、採卵のことを考えると体が緊張するけれど、この体の反応をやさしく落ち着かせていきます」
タッピング中の短い言葉:
「採卵が怖い」
「体がこわばる」
「痛みが心配」
「うまくいくか不安」
「この緊張」
「少しずつ体をゆるめます」

移植後の不安に対して
セットアップフレーズ:
「私は、移植後の結果が気になって不安になるけれど、このそわそわした感覚を少しずつ落ち着かせていきます」
タッピング中の短い言葉:
「結果が気になる」
「体の変化が気になる」
「期待と不安がある」
「落ち着かない」
「このそわそわした感じ」
「今できることに戻ります」

流産や陰性判定の記憶がつらいとき
セットアップフレーズ:
「私は、過去のつらい経験を思い出すと苦しくなるけれど、この胸の苦しさを少しずつ安全にゆるめていきます」
タッピング中の短い言葉:
「あの時のつらさ」
「思い出すと苦しい」
「また同じことになったら怖い」
「心がまだ傷ついている」
「この苦しさ」
「少しずつ安全にゆるめます」
強いトラウマ反応がある場合は、無理に深く思い出す必要はありません。
一人で行うのがつらい場合は、専門家のサポートを受けながら進めることをおすすめします。

周囲の妊娠報告で心が揺れるとき
セットアップフレーズ:
「私は、妊娠報告を聞くと心が揺れてしまうけれど、この反応を責めずに、少しずつ落ち着かせていきます」
タッピング中の短い言葉:
「素直に喜べないつらさ」
「置いていかれる感じ」
「比べてしまう気持ち」
「胸が苦しい」
「私も頑張っている」
「この気持ちを少しゆるめます」

EFTを行うときの注意点
EFTは、自宅でも取り入れやすいセルフケアですが、無理に深い記憶を掘り起こす必要はありません。
特に、流産、死産、強い治療トラウマ、過去の大きな喪失体験がある場合は、一人で無理に行うことで、かえってつらさが強くなることがあります。
その場合は、まずは軽い不安や日常的な緊張から始めることをおすすめします。
たとえば、
- 今日は病院に行くのが少し不安
- 検査結果を待つ間、落ち着かない
- 夜、考えすぎて眠れない
- 周囲の言葉に少し傷ついた
このような比較的扱いやすいテーマから始めると、安全に取り入れやすくなります。
EFTは、妊娠を保証する方法ではありません。
また、医療や心理療法の代わりになるものでもありません。
しかし、妊活中に高まりやすい不安や緊張をゆるめ、心と体が少し安心できる状態をつくるためのサポートにはなります。
妊活では、体を整えることと同じくらい、神経を休ませることも大切です。
「もっと頑張る」だけではなく、
「少しゆるめる」ことも、妊活の大切なケアです。
EFTは、そのために日常の中で取り入れやすいセルフケアのひとつです。

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