体外受精(IVF)を受けている方から、よく聞かれる質問があります。
「10個採卵できたら、何個くらい胚盤胞になりますか?」
「受精まではするのに、なぜ胚盤胞まで育たないのでしょうか?」
「成熟卵がたくさん採れたのに、胚盤胞が1個もできませんでした。卵子の質が悪いのでしょうか?」
採卵ではある程度の数が採れたのに、受精後に分割が止まってしまったり、胚盤胞まで育たなかったりすると、とても不安になると思います。
しかし、採卵した卵子のすべてが受精し、すべてが胚盤胞になるわけではありません。
体外受精では、
採卵
↓
成熟卵
↓
受精
↓
初期胚
↓
桑実胚
↓
胚盤胞
↓
移植
といういくつもの段階があり、その途中で一定数の胚が発育を停止します。
そして、胚盤胞まで育つかどうかには、女性の年齢だけでなく、卵子、精子、胚そのものの染色体や遺伝子、さらに培養環境など複数の要因が関係しています。
ここでは、受精卵がどのように成長するのか、何個くらい胚盤胞になるのか、そして胚盤胞まで育たないときに何を考えればよいのかを解説します。
受精卵はどのように胚盤胞まで成長する?
受精した卵子は細胞分裂を繰り返します。
一般的には、
受精後1日目
前核期胚
2日目ごろ
2~4細胞期
3日目ごろ
6~8細胞期
4日目ごろ
桑実胚
5~6日目ごろ
胚盤胞
へと発育していきます。
ただし、すべての胚が同じ速度で成長するわけではありません。
5日目に胚盤胞になる胚もあれば、6日目、場合によっては7日目に胚盤胞になる胚もあります。
「5日目に胚盤胞にならなかった=妊娠できない胚」という意味ではありません。
胚の発育で重要な「8細胞期」
初期の胚発育には、卵子の中にもともと蓄えられていたRNAやタンパク質などが重要な役割を果たします。
その後、ヒトではおおむね4~8細胞期、特に8細胞期前後に胚自身の遺伝子が本格的に働き始めます。
これを、
胚性ゲノム活性化
Embryonic Genome Activation:EGA
と呼びます。
つまり、受精直後の胚発育では卵子側の要素が非常に重要ですが、発育が進むにつれて、卵子と精子から受け継いだ胚自身の遺伝情報も重要になってきます。
そのため、
「分割が止まった=必ず卵子が悪かった」と単純に判断することはできません。
胚盤胞とは?
桑実胚からさらに発育すると、内部に空洞ができて「胚盤胞(blastocyst)」になります。
胚盤胞になると、大きく2種類の細胞に分かれてきます。
内細胞塊(ICM)
将来、赤ちゃんになる部分です。
栄養外胚葉(TE)
将来、主に胎盤になる部分です。
胚盤胞は発育の程度によって数字で評価され、さらに内細胞塊と栄養外胚葉をA・B・Cなどで評価します。
たとえば、
4AA
4AB
3BB
といった表記です。
これは一般に「Gardner分類」と呼ばれています。
ただし、ここで大切なのは、『胚の形態グレード=染色体が正常かどうか、ではない』ということです。
見た目の良い胚盤胞にも染色体異常が認められることがありますし、形態評価が低めの胚から健康な赤ちゃんが生まれることもあります。
採卵した卵子の何個くらいが胚盤胞になる?
体外受精では、採卵した卵子がそのまますべて胚盤胞になるわけではありません。
大まかなイメージとしては、
採卵
↓
成熟卵:約70~85%
↓
受精:約70~80%
↓
胚盤胞:約30~60%
と、段階ごとに数が減っていきます。
たとえば10個採卵できた場合、
10個採卵
↓
7~8個成熟
↓
5~6個受精
↓
2~3個前後の胚盤胞
という経過になることがあります。
ただし、これはあくまでも平均的なイメージです。
同じ10個の採卵でも、
・年齢
・成熟卵の割合
・受精方法
・精子所見
・培養条件
・患者さん個人の卵巣反応
などによって結果は大きく異なります。
年齢が上がると胚盤胞になりにくくなる?
年齢は、卵子および胚の発育能力を考えるうえで非常に重要な因子です。
年齢が上がるにつれて大きな問題になるのが、卵子由来の染色体数異常(aneuploidy)の増加です。
卵子が成熟する際には染色体を正確に分配する「減数分裂」が行われます。
しかし加齢に伴って、この染色体の分配エラーが増えます。
その結果、
・受精しない
・途中で分割が止まる
・胚盤胞まで到達しない
・着床しない
・流産する
などが増える一因になります。
15,169個の胚盤胞を解析したFranasiakらの研究でも、女性の年齢上昇に伴って染色体異常胚の割合が大きく増加することが報告されています。
したがって40代では、「採卵できた卵子の数」だけではなく、その中から移植可能な胚盤胞を何個確保できるかという視点がより重要になってきます。
なぜ年齢とともに卵子の染色体異常が増えるのか
卵子は精子とは異なり、成人になってから新しく大量に作られ続ける細胞ではありません。
女性が胎児の時期に作られた卵母細胞は、長期間にわたって卵巣内に存在し、その後、排卵に向けて成長していきます。
そのため年齢とともに、
・染色体を分ける装置の機能低下
・ミトコンドリア機能の変化
・酸化ストレス
・DNA損傷
・細胞内環境の変化
などが蓄積し、染色体分配エラーが起こりやすくなると考えられています。
卵子とミトコンドリア
卵子の発育を考えるうえで、近年非常に注目されているのがミトコンドリアです。
ミトコンドリアは細胞の中でATPと呼ばれるエネルギーを作る器官です。
卵子は、
・成熟
・受精
・細胞分裂
・胚盤胞形成
という非常にエネルギーを必要とする過程を経験します。
そのため、卵子には非常に多くのミトコンドリアが存在しています。
加齢した卵子では、ミトコンドリア機能やミトコンドリアDNAの変化などが報告されており、これらが卵子の発育能力低下に関与している可能性があります。
ただし、「ミトコンドリアを増やせば必ず胚盤胞率が上がる」というところまで、人で証明されているわけではありません。
サプリメントや生活習慣についても、効果を過大評価せず、医学的治療と組み合わせて考えることが大切です。
AMHが低いと胚盤胞にならない?
患者さんからよく聞かれるのが、「AMHが低いから卵子の質も悪いのでしょうか?」という質問です。
これは分けて考える必要があります。
AMHは主として、卵巣の中にどの程度卵胞が残っているか、そして刺激に対して何個程度の卵子が得られそうかを推測するための指標です。
つまり、AMH=卵子の数に関係する指標であって、AMH=卵子の質ではありません。
AMHが低くても妊娠につながる卵子が得られることはあります。
一方、AMHが高くても年齢が高ければ染色体異常率は上昇します。
卵子の質を考える際には、AMHよりも女性の年齢の影響が非常に大きいと考える必要があります。
胚盤胞まで育たない原因は卵子だけではありません
成熟卵が何個も採れているのに胚盤胞にならないと、「私の卵子が悪いからだ」と思ってしまう方が少なくありません。
しかし、そうとは限りません。
考えられる要因はいくつもあります。
1.卵子側の要因
・加齢
・染色体分配異常
・卵子成熟の問題
・ミトコンドリア機能
・細胞質の状態
などが関係します。
2.精子側の要因
受精卵の遺伝情報の半分は精子由来です。
一般的な精液検査では、
・精子濃度
・運動率
・形態
などを調べますが、それだけでは分からない問題もあります。
たとえば精子DNA断片化(DFI)などです。
特に、
・受精率が低い
・受精後に繰り返し発育停止する
・良好胚がなかなか得られない
・流産を繰り返す
といった場合には、女性側だけでなく男性側も一度きちんと評価することが重要です。
精索静脈瘤など、治療できる男性不妊が隠れている場合もあります。
3.胚自身の染色体・遺伝的要因
受精が成立しても、すべての胚が正常に発育できるわけではありません。
染色体数の異常などがある胚では発育が途中で停止することがあります。
また、人の胚では8細胞期前後から胚自身の遺伝子が本格的に働き始めます。
この時期は胚発育にとって一つの重要な転換点です。
4.培養環境
採卵された卵子は、受精後、子宮の中ではなく培養室のインキュベーター内で胚盤胞まで育てられます。
そのため胚盤胞到達率には、
・培養液
・温度
・pH
・酸素濃度
・インキュベーター
・培養室の管理
・胚培養士の技術や施設ごとの方針
なども関係します。
したがって、「子宮の血流が悪いから、採卵後の受精卵が胚盤胞にならない」と直接結びつけることはできません。
一方で、採卵されるまで卵胞は卵巣内で長期間成長しています。
そのため、採卵前の健康状態や代謝環境などが卵子の成熟過程に影響する可能性については、さまざまな研究が進められています。
卵子は採卵直前だけで作られているわけではありません
卵子は、採卵周期の数週間だけで突然完成するものではありません。
原始卵胞から排卵可能な卵胞になるまでには長い期間を要し、そのうち排卵前の数か月には卵胞が大きく成長していきます。
つまり、「採卵が決まったから今週から何かをする」というより、数か月単位で生活環境を整えていくという考え方が現実的です。
ただし、過去の記事などでみられる「卵子は290日で作られる」「90日前から○○をすれば卵子の質が改善する」といった表現は、人体で明確に決まった期限を示すものではありません。
卵胞発育は連続した長い過程として考える方が適切です。
では、胚盤胞まで育たないとき何を見直す?
一度の採卵結果だけで「卵子の質が悪い」と判断する必要はありません。
ただし、複数回の採卵で同じ傾向が続く場合には、主治医と相談しながら次の点を振り返る価値があります。
・採卵数と成熟卵数
・未成熟卵の割合
・受精率
・IVFかICSIか
・受精後どの段階で発育が止まるか
・Day3まで育つか
・Day5、Day6の胚盤胞数
・胚盤胞のグレード
・男性側の精液所見
・必要に応じて精子DNA断片化などの評価
・卵巣刺激法
・採卵時期
・培養方法
・年齢
・喫煙、睡眠、運動、体重、栄養状態など
「採卵数」だけを見るのではなく、
採卵 → 成熟 → 受精 → 分割 → 胚盤胞
のどこで数が大きく減っているのかを見ることが重要です。
胚盤胞培養にはメリットとデメリットがある
胚盤胞まで培養すると、発育を続けられた胚を選択して移植できるため、移植1回あたりの着床率を高められる場合があります。
また、胚盤胞は自然妊娠でも胚が子宮に到達する時期に近いため、現在の体外受精で広く用いられています。
一方で、胚盤胞培養には注意点もあります。
胚数が少ない場合には、長期培養することで移植できる胚が1個も残らない可能性があります。
そのため、
「初期胚移植より胚盤胞移植の方が必ず優れている」
というわけではありません。
採卵数、受精卵数、年齢、過去の治療成績、培養室の成績などを考慮して選択します。
IVFは「1個の卵子」ではなく全体の確率で考える
体外受精では、一つの卵子の結果だけを予測することはできません。
たとえば、
10個採卵
↓
8個成熟
↓
6個受精
↓
3個胚盤胞
という方もいれば、
10個採卵しても胚盤胞が1個だけという周期もあります。
反対に、採卵数が少なくても、その1個が妊娠・出産につながることもあります。
そのため体外受精では、
採卵できた数
→ 成熟卵数
→ 受精卵数
→ 胚盤胞数
→ 移植可能胚数
→ 妊娠・出産
という一連の流れで考えることが大切です。
胚盤胞まで育たなかったからといって、自分を責めないでください
採卵後、「今回は胚盤胞ができませんでした」と言われることは、患者さんにとって非常につらい結果です。
しかし、それは、
「食生活が悪かったから」
「運動しなかったから」
「ストレスが多かったから」
と一つの理由だけで説明できるものではありません。
胚発育には、年齢、卵子、精子、染色体、遺伝子、培養環境など非常に多くの要素が関係しています。
特に年齢に伴う染色体異常については、生活習慣だけで完全に防ぐことはできません。
そのうえで私たちができることは、医学的な治療を適切に受けながら、
・十分な睡眠
・適度な運動
・禁煙
・適正体重
・血糖管理
・栄養不足の改善
・男性側の評価
・必要に応じた栄養・生活習慣の見直し
など、変えられる部分を一つずつ整えていくことです。
アキュラ鍼灸院で大切にしていること
当院では、単に「卵子の質を上げましょう」という説明だけで終わらせず、採卵 → 成熟 → 受精 → 分割 → 胚盤胞 → 移植のどの段階に課題があるのかを、患者さんと一緒に確認することを大切にしています。
必要に応じて、
・これまでの採卵・培養結果の整理
・生活習慣
・睡眠
・運動
・栄養状態
・男性側の検査歴
・体外受精の治療経過
なども確認しながら、鍼灸・栄養・生活面から妊活をサポートしています。
鍼灸だけですべてを解決できるわけではありません。
だからこそ、西洋医学による不妊治療と、鍼灸・栄養・生活習慣の改善をうまく組み合わせながら、妊娠だけではなく、その先の出産までを見据えた身体づくりを一緒に考えていきます。
参考文献
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- Franasiak JM, Forman EJ, Hong KH, et al. The nature of aneuploidy with increasing age of the female partner: a review of 15,169 consecutive trophectoderm biopsies. Fertility and Sterility. 2014;101(3):656-663.
- Van Blerkom J. Mitochondrial function in the human oocyte and embryo. Human Reproduction Update. 2011;17(3):284-295.
- Tal R, Seifer DB. Anti-Müllerian hormone and ovarian reserve. Fertility and Sterility. 2015;104(3):556-560.
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- Stowers J, et al. Human 8-cell embryo-like cells from pluripotent stem cells. Current Opinion in Genetics & Development. 2023;81:102066.
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