「子宮の加齢変化と妊娠率の関係」を調べたスペインの研究チームのオープンアクセスの論文(全文無料で読める論文のことをオープンアクセルと言う)。「ありがたいな」と思う反面、なぜ無料?という疑問が先日大学で研究をしている幼馴染と話していて納得。少し調べてみました。
無料で読める論文は「誰かが」払っている
誰でも無料で学術論文を読めるようにする仕組みのこと。
けれど、「読者が無料」=「誰もお金を払っていない」ではありません。
実際には、論文を掲載するために 著者(または研究助成機関や大学)が高額な掲載料を支払っています。
この掲載料は APC(Article Processing Charge) と呼ばれ、
医学・生命科学分野では 1 本あたり 30〜60万円 が一般的です。
つまり──
読むのは無料、出すのは有料。
これがオープンアクセスの現実です。
なぜ研究者はお金を払ってまで発表するの?
一見すると「なぜそんな高いお金を払うの?」と思うかもしれません。
しかし、研究者にとってはきちんとした理由があります。
① 世界中の人に読んでもらえるから
有料ジャーナルは大学や病院が購読契約をしていないと読めません。
でもオープンアクセスなら、どの国の研究者でも、臨床医でも、
患者でも読むことができます。
読者数が桁違いに増えるため、引用されるチャンスも高くなります。
② 助成金の条件で「公開」が義務
ヨーロッパでは「Horizon Europe」、日本では「科研費」など、
多くの研究助成で「成果はオープンアクセスで公開すること」が義務化されています。
つまり、お金を払ってでも公開しなければならない仕組みになっているのです。
③ 学術的な信頼と評価につながる
有名誌でオープンアクセス論文を出すことは、
研究者にとって「自分の成果を世界に示す名刺」のようなもの。
広く読まれ、引用されることで、次の研究費や共同研究にもつながります。
掲載料(APC)は誰が払うの?
研究者がポケットマネーで払うわけではありません。
多くの場合は、以下のどれかに該当します。
1)研究助成金 研究費の中に「出版費」として組み込まれている
2)所属大学・研究機関 出版社と包括契約(Read & Publish契約)を結び、研究者の分をまとめて支払い
3)政府・公共基金 公的資金によるオープンサイエンス推進として支援
つまり、研究費=税金から支払われていることも少なくありません。私たちが読む「無料の論文」は、間接的に社会全体で支えているとも言えます。
オープンアクセスの「光」と「影」
オープンアクセスの理念は素晴らしいものです。
知識を閉じた世界から解放し、
世界中の誰もが同じ情報にアクセスできるようにする——。
けれど、良い面ばかりではありません。
誰でも読めるため、研究成果の広がりが早い
メリット
途上国や小規模研究機関でも最新情報を得やすい
社会的インパクト(政策・医療現場への応用)が高まりやすい
デメリット
高額な掲載料が必要で、経済的格差が生まれる
掲載料目当ての“質の低いジャーナル”が乱立(いわゆる「ペーパーミル」)
「見た目だけ立派」な“壁紙論文(wallpapered publication)”が増加
結果的に、お金のある研究者ほど発表しやすいという新たな不公平も
今回の論文も、裏では約55万円が支払われている
冒頭で紹介したスペインの研究チームの論文も、
『Reproductive Biology and Endocrinology』という完全オープンアクセス誌に掲載されました。
読者は誰でも無料で全文を読めますが、
その裏では、研究チーム(もしくは助成機関)が
約3,700ドル(約55万円) の掲載料を支払っています。
論文の公開費用は決して安くはありません。
しかし、それによってこの研究成果が
世界中の生殖医療の現場で共有され、
新たな発見や治療法につながる可能性が広がります。
「無料」は無料じゃない — 知を支える見えないコスト
オープンアクセスは、
知識を誰もが使える「公共の財産」として開くための大きな一歩です。
けれどその理想を支えているのは、
研究者や大学、そして私たちの社会が負担する“見えないコスト”です。
無料で読める論文の裏には、
研究者の努力と誰かの支払いがある。
そう思って読むと、
「知識を開く」ということの重みが、少し違って見えてくるかもしれません。
論文の内容を知りたい医療関係者は下記リンクへ
https://rbej.biomedcentral.com/…/10…/s12958-024-01323-6
Martí-García D, et al.
Age-related uterine changes and its association with poor reproductive outcomes: a systematic review and meta-analysis.
Reproductive Biology and Endocrinology. 2024;22:152.

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