40歳以上で胚盤胞が少ないとき、PGT-Aは本当に有利か?

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はじめに

40歳を超えると妊娠の可能性は下がるといわれていますが、赤ちゃんを望む気持ちは変わりません。
実際の診療現場では「採卵で得られる胚盤胞が1個だけ」というケースも少なくありません。

そのときに問題になるのが――
「その1個に対してPGT-A(着床前遺伝学的検査)を行うべきか?」 という判断です。
これは医学的にも簡単なテーマではなく、患者さんと医療者が一緒に考えるべき重要な課題です。


PGT-Aが役立つ場面とは?

PGT-Aは、本来「複数の胚の中から、染色体が正常なものを選ぶ」ときに力を発揮します。

近年、若年〜中年層で複数の良好な胚が得られるケース(いわゆるGood Prognosis)では、PGT-Aによって妊娠までの時間が短縮されることが報告されています(Eliner et al., Fertil Steril 2025)。

ただし重要なのは、「採卵1回あたりで最終的に赤ちゃんを授かれる確率(累積出生率)」が必ず改善するとは限らないという点です(Yan et al., NEJM 2021)。

最終的に赤ちゃんを授かれる確率が改善するとは限らない具体例

  • 胚盤胞が5個得られたとき
     → PGT-Aなし:流産を経る可能性はあるが、順番に移植していけば最終的に赤ちゃんを授かれるチャンスは残る。
     → PGT-Aあり:もし5個すべて「異常」と判定されたら、その周期は移植の機会自体がゼロになってしまう。

40歳以上で胚数が少ないときに起こること

1. 正常胚ゼロのリスク

40歳を超えると「染色体異常の胚」が増えます。
15,169例の解析では、42歳で33%、44歳では53%が「正常胚ゼロ」でした(Franasiak et al., Fertil Steril 2014)。

つまり、胚が1〜2個しかないときにPGT-Aを行うと、「異常」と判定されて移植チャンス自体を失うリスクが高くなります。


2. 移植あたり成績と累積成績の違い

  • 移植あたりの成績:正常胚が見つかれば、年齢の影響を受けにくい(Lawrenz et al., RBMO 2024)。
     → 「移植効率を上げる」のがPGT-Aの強み。
  • 採卵あたりの成績(累積):40歳以上では「正常胚が得られない周期」が増えるため、PGT-Aによる成績改善は安定して示されない。
     → 「最終的な結果」が必ず良くなるとは限らない。

さらに最近の研究では、正常胚を移植しても年齢が高いと流産率が上がると報告されています(Jiang et al., J Ovarian Res 2025)。

つまり、PGT-Aだけで年齢の壁を超えることは難しいのです。


学会の立場

  • ASRM(米国生殖医学会, 2024年見解)
     → PGT-Aを全員に一律で行うことは推奨せず、特に胚数が限られる場合は有用性が限定的と明記。
  • ESHRE(欧州生殖医学会, 2020年勧告)
     → 適応を慎重に選び、必ず十分なカウンセリングを行うべきとしています。

40歳以上・胚が少ないときの選択肢

1)胚バンキング(貯卵)

複数回採卵して胚を集めてからPGT-Aを行う方法。

  • メリット:選別を活かし、正常胚を移植することで妊娠率UP,流産率Down
  • デメリット:加齢による卵子の質低下リスクがある、貯卵しても正常胚を確保できない希望通り可能性もある。

2)PGT-Aをせずに移植してチャンスを残す

少数胚のときは「チャンスを優先」する方法。

  • メリット:移植の機会を残せる
  • デメリット:異常胚のリスクや流産の可能性を受け入れる必要

3)卵子提供を検討する

加齢の壁を越えるもっとも確実な選択肢。

  • メリット:出生率が若年層と同等に改善
  • デメリット:心理的・倫理的・費用的な課題

4)生活習慣・体の状態を整える

睡眠、体重管理、喫煙・飲酒、甲状腺や代謝の管理などを整える。
→ 鍼灸や漢方、栄養療法が得意とする分野でもあり、「卵子と子宮の環境づくり」は治療全体を支える基盤になります。

まとめ

どの道を選ぶかは「医学的データ」と「ご自身の希望・価値観」の両方を踏まえて考える必要があります。
大切なのは、医師と十分に話し合い、自分に合った現実的な選択をしていくことです。

過去の記事も参考にしてください。

流産を繰り返さないために・・PGT-Aを考える前に知ってほしい3つのこと
PGT-A 正常な胚を得るための成熟卵子の必要数

参考文献

  • Harris BS, et al. Success rates with PGT-A in good prognosis patients are dependent on age. Fertil Steril. 2025;123(3):428-438.
  • Eliner Y, et al. PGT-A is associated with a shorter time to live birth over 12 months in patients ≥38y. Fertil Steril. 2025.
  • Yan J, et al. Live Birth with or without PGT-A. N Engl J Med. 2021.
  • Franasiak JM, et al. The nature of aneuploidy with increasing age of women: a review of 15,169 consecutive trophectoderm biopsies. Fertil Steril. 2014.
  • 米国生殖医学会(ASRM). The use of PGT-A: a committee opinion. Fertil Steril. 2024.
  • 欧州生殖医学会(ESHRE)PGT Consortium. Good practice recommendations for PGT. Hum Reprod Open. 2020.
  • Lawrenz B, et al. Age impact after single euploid embryo transfer. RBMO. 2024.
  • Jiang W, et al. Pregnancy outcomes after euploid transfer by maternal age. J Ovarian Res. 2025.

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